今回の作品の完成後、来場者の方々の心にもっとも残ったところはやはり「作中の人物のマスクをはぎ取った」シーンではないだろうか。
もちろん、八田が描く切り絵の中の登場人物のことである。
八田のLIVE切り絵パフォーマンスで描かれる作品は、完成作品をふむふむと言って鑑賞することにあまり意味はない。
なぜなら完成に至るまでのプロセス自体がストーリーとなっているからだ。
完成=結末はあくまでおまけ。優れたナラティブ(物語)が、登場人物や情景そのものに感情がふくまれているように、その結末自体はただの副作用でしかない。
八田の切り絵はパフォーマンス中にどんどん変化を遂げていく。その過程で悲劇だったものが喜劇に転じていったり、あたかも本当の人生のように道程を味わう。
2023年4月1日当日。
倉敷でオープンした竹林のスコレーは、古民家を再利用したオルタナティブスクール。
「はばたき」と題した記念イベントで八田はいくつものモチーフを浮かび上がらせては消し、また浮かび上がらせた。
まず紙のうえに浮かび上がったのは「はばたき」という文字。それらの一字一字はやがて鳥そのものの姿になり、桜の花びらに変わっていく。
マスクをつけた二人がその上空を眺めている。
ピアニストYuriによる演奏が進みカタルシスに達したあたりで、八田のカッターナイフはその二人からマスクを切り取った。
そこに現れたのはうっとりとした表情で、笑顔になる寸前の至福なものだった。
表現したかったことは「マスクがだめ」「良い」ということではない。
なにが大切かを知る機会が、われわれには必要なのだ。
アーティスト八田員成は、この作品をサポートする言葉や知恵を持ち合わせていない。見てくれた人々が、この日のパフォーマンスと作品を強靭なものにしてくれる。もちろん耳障りの良い言葉だけがそのすべてではない。
八田員成 拝
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