八田の切り絵作品は人物画、特に女性を描いたものが目立ちます。
はっきりそれとわかる女性の顔や姿が多いので、よく受ける質問が
作品にモデルはいるのですか?
です。
YesかNoの2択しか選べないとすれば、答えはYesです。
しかし、ぼくは「ただ見たままを描く」ことが苦手な、天邪鬼です。
本当の答えは「Yes寄りのNo」。
どういうことなのか説明しますね。
1枚の作品にひとりの女性の姿が描かれているとします。
あなたは、その作品の女性を見て
「○○に似ている・・・でもどこかが違う」
と感じるはずです。
なぜなら様々な人の姿を合成させて描かれているからです。
特定の1人、ではないわけです。


顔のりんかく、
目の表情、
ポーズ、
手の形。
八田が視覚的な美しさを感じた、あらゆる人の部位を組み合わせた、この世に存在しない者の誕生。
いわば「神(紙)の子」です。
そして、その姿をあくまで「入れ物」として、描きたい感情・心象風景・イメージ・物語などを、花や蝶、うねりの線、色などを用いて視覚的に伝わるものとして描き入れてます。
まるでグラスという容器に、ワインという美酒を注ぐかのように。


あなたが八田員成の切り絵作品を見るとき。
それはグラス(人の姿)に注いだワイン(花や線などの視覚的デザイン)を、光に透かして見るような時間です。
見ているうちに、直接的ではない味や香りが五感を刺激するはずです。
複雑な線の堆積で浮かび上がる、物語の表情を感じてください。
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